長谷村工房

オートバイ等の作業備忘録、兼日記。

XR250で貧乏パニア 強度計算編 2/2

こちらは強度計算編の後編になります。
よろしければ前編からどうぞ。

 

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さて、次はM(曲げモーメント)を求めましょう。
モーメントはかかる力と、測定したい点からの距離を掛けて求めます。
オートバイに乗るものになじみ深い「トルク」は、モーメントを回転方向に限定した場合の表現です。
まぁモーメントは大体回転することになるので、同じものと思ってイイです。

 

まずは距離を求めます。
机の脚となるパイプは天板にねじ止めするので、そこを曲げの支点とします。


次にどこに力がかかるか、という事です。
足となるパイプとパニアはしっかり固定されているものと仮定して、重心はまぁ箱の真ん中にしときましょう。


この支点と重心を線で結び、この長さを求めます。

 

箱の断面の寸法はおよそ200×400。
パニアフレームの形状から考えて、底辺が160で高さが200となります。

 

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斜辺は三平方の定理より、

斜辺 = √(160×160+200×200)
   = 256.125

となります。これがモーメントの距離となります。

 

次に力の大きさを求めます。
記事の最初に書いたように力を分解しますと、力Fは今回の計算に関係ないFyと、フレームを曲げる力になるFxになります。
このFxの計算の為には、角度の計算が必要になります。
そのために、先ほどの距離を求めた三角形の角度を求めます。

 

底辺160で高さ200の三角形の角度θは、逆三角関数より

θ = arctan(200/160)
  = 51.340[°]

となります。


これよりFとFxの間の角度も、同じ51.340°とわかります。
となれば

cos51.340 = Fx / F
    Fx = cos51.340 × F

となります。


今回は載せられる重さを調べるための計算なので、このFを最終的に求めることになります。

 

 

さて、距離と力が出ましたので、モーメントを求めます。
モーメントは前述した通りに距離と力を掛けたものですので、


距離 256.125[mm] → 0.256125[m]
力 Fx[N]


なので、

M = 0.256125・Fx[N・m]
となります。

 

 

 

さて、次はZ(断面係数)です。
これはとても簡単です。断面形状によって決まった数式がありますので、それに数値を入れて計算するだけです。
ぐぐれば色々な形状の断面係数の計算式がありますが、今回は使用する丸パイプのものだけ書いておきます。

 

Z = π/32 × (D^4 - d^4)/ D

 

Dはパイプの外径、dが内径になります。
D^4は外径の四乗の事です。

 

これを計算すると、558.846[mm^3] となります。単位をミリメートルからメートルにするときは、これに10^-9を掛けます。

 

 

 

 

さて、これで役者は出そろいました。前述したように、曲げの計算式は

σ=M/Z

です。σは20[MPa]、Mは0.256125・Fx[N・m]、Zは558.846[mm^3]です。式にすると、

20 × 10^6 = 0.256125・Fx / (558.846 × 10^-9)
0.256125・Fx = 20 × 10^6 × 558.846 × 10^-9
       = 11.17692
     Fx = 43.639[N]

となります。


更に前述したように、Fxは曲げる方向の力であって、パニアの重量そのものではありません。
パニアの重量はFなので、

Fx = cos51.340 × F

ですので、これに数値を代入して計算すると、

43.639 = cos51.340 × F
   F = 69.855[N]

となります。これを力であるN(ニュートン)から重さであるKgに変換すると、

69.855 / 9.8 = 7.128[Kg]

となりました。

 

この形状なら、フレーム一本当たり7.1Kgに耐えられるようです。
フレームは2本使いますので、片側14Kgが最大積載量と言ったところでしょうか。
それっぽい数値になりましたね。

 

しかし考えてもみてください。安全率が10ということは、理論上は10倍の力に耐えられるという事です。
「フレームが強固に天板に固定されている」という前提であれば、このフレームで両側で280Kgの物を吊るしても大丈夫という事になります。

 


ほんまかいな……。

 


まぁ心配ならフレームを一本増やすのもアリだと思います。
純正のパニアフレームの様に後ろ方向から支えるのも良いですし、同じフレームを追加して4本足から6本足にしても良いですね。
6本足は見た目が若干キモくなりますが、追加の足は凸形状にする必要もなく、ただのコの字で良い訳です。
凸形状よりはコの字の方が、製作費は多少安くなるのではないでしょうか。

 

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ちょっと怪しさを残しつつ、それっぽい数値が出たので良しとします。一応使えましたし。まぁまだ一回しか使っていませんけども。


皆様の参考になれば、幸いです。

 

念のためですが、この計算を元に作成して「壊れたじゃねぇかYo!」と言われましても責任は負いかねますのでご了承くださいませ。

 

これにて、パニアフレームデスク 睦月型シリーズは終了です。
お付き合い、ありがとうございました。

XR250で貧乏パニア 強度計算編 1/2

今回はパニアフレームデスクの強度計算についてお話します。
この強度計算はパニアフレームデスクのみならず、様々な状況で利用できます。皆様の参考になれば感謝の極みです。
一応、私は高校・大学と工業系で機械工学専攻でした。とは言え仕事で設計をしている訳でもなく、所詮は素人に毛が生えた程度の計算ですので、あくまでご参考までに。間違っていたらごめんね!

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さて、強度計算と言っても、今回お話しするのは曲げに関することだけです。
全部紹介したら、本気で本が一冊出来ますので。

 

まずは「何処にどの様に力が掛かっているか?」という事を求めなければなりません。
さて、読んでくださる方を小馬鹿にしたような問ですが、左端を支点として固定している棒の右側を、右に引っ張ったらどうなるでしょうか。

 

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当然、動きません。
次に、その棒が曲がっていたらどうでしょうか。
その棒はくるくる回る事になります。至極当然です。
しかし、問題はこの曲がった棒に「どの方向にどのくらいの力が掛かったか」という事です。

 

考え方としては、まずは支点と力点を線で結びます。これを直線Aとします。
次にその直線Aに対して、力点にかかっている力Fを「そのまま同じ方向の物Fy」「直角なものFx」に力を分解します。
所謂「直角分力」と言うものを求めるわけです。

 

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こうすると一目瞭然です。Fyは棒がくるくる回ることに関しては一切関与していません。
Fxの力でこの棒は回っていることになります。
現実問題としては、Fyも棒の曲がっている箇所を真っ直ぐ伸ばそうとする働きをしています。なので完全な無駄力ではないです。
が、計算の目的に応じてかかっている力の方向や大きさを求めるのはとても大事です。というかこれが出来ないと計算できません。
この直角分力の計算も三角関数が必要ですので、「数学など忘却の彼方」という方も記憶の海を漂ってみてください。


学校の勉強と言うのは、生き方次第で役に立つものです。

 

 

 

さて、次に曲げの計算に移ります。
様々な過程をすっとばして計算式を出しますと、

σ=M/Z

となります。


σは許容曲げ応力。梁が受ける事が出来る、最大の応力になります。
Mは曲げモーメント。曲がる箇所からの距離と、そこにかかる力で計算します。バイク乗り的には、トルクと言う方が分かりやすいでしょうか。
Zは断面係数。梁の断面形状の応じて計算式があり、その計算により求められます。

 

 

まずはσ(許容曲げ応力)から求めましょう。
金属は引っ張ると、伸びて切れます。当然ですね。
この切れるときの力を極限強さといいます。これを「金属を引っ張って強度試験をしたとき」の極限強さを、引っ張り強さと言います。


この数値で計算しますと、想定以上の力が掛かったときにはブッ壊れます。
想定以下の力でも材料に曲がりなどのゆがみが出てしまい、所定の機能を果たせなくなる恐れがあります。
極限強さの名の示す通り、異常が出たら即交換などの極限の軽量化を進めるとき以外で、この数値で計算するのはお勧めしません。

 

しかしバネの様に、金属の種類によってはある程度伸びても元に戻る特性があります。
この伸びても元に戻る力の限界を弾性限度と言います。
この数値を使えば、少なくとも想定の範囲内であれば荷重によるたわみが出ても、荷重を外せば元に戻ります。バネのように。

 

しかしこの数値は材料によっては求めることが難しいようです。


ステンレスもその一つのようで、そこでよく出てくる数値が「耐力」です。
耐力は、簡単に言うと材料がちょっと伸びちゃったときの力です。
そのちょっと伸びちゃった量は、一般的に0.2%となります。
つまり1mの材料をその耐力で引っ張ると、2mm伸びて、力から解放しても元に戻りません。
「戻んねえのかYo!」って話なんですが、弾性限度が調べても出てこないからね。仕方ないね。
今回はこの耐力で計算します。

 

 

ところで「曲げの計算なのになんで引っ張りの力で計算すんの?」という事ですが、例えば丸棒を曲げたとします。
その時に、曲がった部分の外側は引っ張られて伸びています。内側は圧縮されて縮んでいます。
曲げとは、引っ張りと圧縮の合わせ技な訳ですね。


ネットで検索すると、

JIS B8265によると
許容せん断応力=許容引張応力x0.8
許容曲げ応力=許容引張応力x1.5
と規定されている。

とのことでしたので、今回は引っ張り試験で求められた耐力を使用することにします。

 

 

さて、調べてみた感じではステンレスの耐力は低くても150[MPa]はあるようです。
平均すると200[MPa]前後が多い感じでしょうか。
使用される材料が分かればいいのですが、「ステンレス」としかわかりませんので、まぁ200[MPa]で良いでしょうか(めんどくなってきた)。
150[MPa]に上記の1.5を掛けても225[MPa]になりますし。

 

これにさらに「安全率」を掛けます。
安全率とは、「こういう荷重なら、こんくらい多めに見積もっておけば大丈夫だよ。」という数値です。
設計者の経験により変わるものでもあるのですが、目安として言われているものがあります。


鋼材の場合は

静荷重 3
繰返し片振り荷重 5
繰返し両振り荷重 8
衝撃荷重 12

となっています。


大雑把に言うと、静荷重はそっと荷重をかけて、そのまま放置。
繰返し片振り荷重は、荷重を掛けたり外したり繰り返すこと。
繰返し両振り荷重は、荷重を掛けたり外したり繰り返すうえに、荷重を色んな方向から掛けることです。
衝撃荷重は、読んで字の如し。荷重をドスッと一気にかけることです。

 

まぁ衝撃荷重は特にですが、あくまで目安です。
同じオートバイで走っていても、50km/hで転ぶのと300㎞/hで転ぶのでは大違いです。後者は転ぶというより吹っ飛んでます。
しかし意味合い的にはどちらも衝撃荷重です。


今回は解りやすく、安全率は10とします。


「耐力」を「安全率」で割った数値が、今回の「許容曲げ応力」になります。つまり

200/10=20[MPa]

となります。

 

 

またもや長くなってしまったので、前編はこの位で。
次に続きます。

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XR250で貧乏パニア 製造編 2/2

こちらは製造編の後編になります。

よろしければ前編をご覧ください。

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さて次は箱と、箱の固定金具をamazonで注文。
箱は以前にも書きましたが「TRUSCO(トラスコ) プロテクターツールケース オリーブ XL TAK13OD-XL」(一個 ¥6454)を使用。

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(大きさ比較用、ゆるキャン△)


固定金具は液晶テレビの壁掛け金具である「Sunny Islands 液晶テレビ モニター 壁掛金具 VESA規格対応 薄型固定式 15型~32型対応 ブラック」(一個 ¥1980)を。

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amazonの説明文には「耐重量35Kg」とあるのに、製品パッケージには「耐重量25Kg」と書いてある、ステキ商品です。


これらを二つずつ注文しました。

 

パイプと板の固定には、配管用金具を使用。
あと、各種ボルト類や天板用の板と着色ニスもホームセンターで購入。

 

そして更に注文したものがあります。
amazonで購入した液晶壁掛け金具は、金具同士をスライドさせて脱着します。
それだけでは当然固定は出来ないわけでして、固定の為に金具の下部にM4のネジがあります。
本来ならばドライバーでねじを締めるわけですが、ツーリングの際にドライバーとネジをわざわざ持っていくのも面倒です。
出先で無くして固定や脱着が出来なくなっても大変です。
なので、これは延長した蝶ボルトで行います。
蝶ボルトは普通のホームセンターで売っている物です。
延長には六角支柱(オスメスタイプ)を使用しました。

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六角支柱は私の家の近くのホームセンターでは売っていなかったため、モノタロウで発注。
一般向けのIHCモノタロウでは取り扱いがなかったので、業者向けの方で注文。
個人でも、「個人事業主」を名乗れば注文できます。皆さんもレッツチャレンジ!

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蝶ボルトと六角支柱はねじロックで固定しました。

 

さて、机の天板になる板は、素のままだと汚れなどが付きやすくなります。
そのために保護もかねて着色ニスで塗装します。
まずは角がそのままだとぶつけた時などに凹んだりしやすいので、適当に紙やすりで丸くします。
その後、平面も一緒に紙やすりで撫でてきれいにします。
この下地作業でどれだけ綺麗にしておくかが、塗装の仕上がりに大きく影響します。オートバイなどの外装塗装などでも同じですね。
さ、下地が終えたら着色ニスを塗っていきます。詳しいやり方はご自身で調べていただいた方がよろしいかと思いますが、私は適当に刷毛塗りです。
刷毛の抜け毛に悩まされつつも、三回ほど塗り重ねて完成です。

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私の様に酒に酔った状態で最後の仕上げ塗りをしますと、非常に残念な結果になりますのでご注意ください。

 

次に箱への固定金具装着のため、箱に穴をあけていきます。
プラスチックへの穴あけは、個人的には木工や薄板加工用の「ローソク型ドリル」が使いやすいと思います。

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先端が素材に刺さるため、穴位置がずれにくいです。そして素材が柔らかくても、真円があけやすいです。感覚的には、凄く小さいホールソーの様な感じになります。
普通のドリルだと、素材が柔らかくて薄いとドリルがブレて穴が歪みます。位置もずれます。
ホムセン箱の加工を検討している方は、「ローソク型ドリル」を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

さて、そんなこんなで箱に金具を取り付けます。
箱の内側は大きめのワッシャーを挟んであります。

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ボルトと箱の接触面積が大きくなるほど、接触面にかかる負担が分散されて強度アップが期待できます。
ホムセン箱を車体に固定している人は、大きな木の一枚板を付けている方が多いですね。
今回は「6箇所も止めてるんだから大丈夫だろう。」と「木の板の加工がめんどい。」との理由から、大きめのワッシャーになりました。こちらもモノタロウで買いました。

 

そして箱の底部には二つの木っ端がビス止めしてあります。

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これはパイプフレームの角に、箱の角が干渉しないようにしています。
前述した通りに、パイプの曲げRは50mmです。
しかし箱の角のRはおよそ20mm。
そのままだと、箱の角がぶつかってしまい、取り付けに少々工夫が必要になるからです。

 

解決方法としては、まずは私が行ったように箱を上にあげるように底上げすること。
次に上がだめなら外側に張り出すようにすること。
こちらは箱と液晶金具の間か、フレームと液晶金具の間にスペーサーを入れることで可能です。
しかし当然ながら横幅が増えることになりますので、ご注意ください。

 

 

さて、そんなこんなで組み立てれば、パニアフレームデスクの完成です。

 

私は箱の固定の際には、念のためにバンドで箱をパニアフレームに縛っています。

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前述してように、液晶金具の強度が不安であるためです。
走行中に落っことすとかホントに勘弁してほしいですので。

さて、気になる合計費用は約70,000円。私の工賃はプライスレス
そして重量は約10Kg(フレームのみ、箱含まず)。

 

ぶっちゃけ高いです。重いです。

 

しかし強度を多めに見積もったことや、空でも重さ5Kgある箱をぶら下げること、車体幅が合えば流用可能であることを考えると、まぁ良いのかなぁと思います。
基本的に自己満足ですし。

 

これをサイドバックサポートとして作るならば、パイプは凸型ではなくてコの字で良い訳です。
強度も少なくて済むので、パイプ径も細くても大丈夫でしょう。材質もステンレスの必要はないです。液晶金具も必要ありません。
そうすればコストダウンも可能だと思うので、もっと安くできるのではないでしょうか。
値段次第ですが、パイプと板の固定はボルトよりも溶接にすれば更に良いのではないでしょうか。

 

これを量産して売りたい、という業者様がいらしたら、ご連絡ください。
ロイヤリティーはお安くしておきますよ(ゲス顔)。
まぁいないでしょうけども。

 

次回はパニアフレームデスクの設計編、強度計算のやり方を予定しています。
素人計算ですので保障は出来ませんが、参考になれば幸いです。
それでは。